手染めの京友禅風呂敷 平井友仙
      

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    「板場友禅」の昔と今 - 京友禅 平井友仙


    京都でも数少なくなった「板染め」の工場(こうば)。油小路にある町屋の奥、建物や設備など作業環境を改善した工場(こうば)では、昔ながらの道具と技を守って風呂敷や袱紗が作り続けられている。その主人が抱く伝統への思いにこそ、そのこだわりを感じる。
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     約13メートル、一反分の長さのある板の上に生地を敷き、染料を塗って染め上げる。そんな昔ながらの「板場友禅」を行う平井友仙では、京都の職人小路にある京町屋独特の細長い敷地の奥に工場(こうば)を構えている。11年前に建て替えた、今は京都でも2軒しか残っていない「板染め」の工場(こうば)には歴史を感じさせる染め板や道具と機械設備が同居している。そこで正絹縮緬地(しょうけんちりめんじ)に手染め独特のぼかしなどを施した風呂敷、袱紗のほか、帯や法被などを染め上げている。

    「以前は堀川沿いでも染物が行われ、加茂川友禅と呼ばれるものもありました。現在は、市内でも一番長い通りであるこの油小路沿いに染物工場が並んでいますが、板染めを行うところは少なくなりましたね」

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     明治27年の創業時から数えて4代目にあたる現在の主人・平井良和氏はそう語る。戦時中も営業していたというこの平井友仙で、彼が染めの世界に入ったのは30年前、25歳のときだった。当時は、職人は常時5〜6人いたが、現在は良和氏と息子さんの2人だけ。そんな時代の流れを感じる変化はあるものの、基本となる染めの技術や道具に関しては伝統のものを大切に守っている。

    「この長い板に生地を敷いて、まず糊を吹き付けて固定し染料で模様をつけていきます。それを乾燥させて模様を染め付けた後に、再び板の上で糊が混ざった染料を使って地色を付けていくんです。その後は蒸し機に入れ、100℃の高温で約40分間蒸し上げることによって染めていくというやり方です」

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     格子戸のある外観を持つ100年以上の歴史ある建物の奥には、絵柄を乾燥させるための熱風を噴出すダクトや、蒸し上げた後の洗いを行う機械など、効率よく、伝統的な京友禅を仕上げる設備も揃う。
     板場友禅による高級風呂敷や茶席の座布団を作り続けてきた平井友仙は、これまでに宮内庁御用達の夜具や、鴨川おどりの着物を染めた実績もある。そんな老舗の主人として、良和氏はその文化を残していくということにも積極的だ。

    「今、周りを見わたしても風呂敷を持っている人は珍しいでしょう。日本人が着物を着る機会が少なくなっていることも影響しているのでしょうが、日本の民族衣装だから誰かが伝えていかないといけないと思うんです。うちでも、小学生を工房見学に招いたりして、ささやかながら地場産業を守る取り組みをしているんですよ」

     生地によって変わる染料の調合割合や染めのための板、刷毛、型紙など、情報や物として伝えるべき伝統は、もちろん平井友仙に数多く残っている。そしてそれ以上に、京都の文化として残していきたい、染物としての魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちが、明治の時代から脈々と受け継がれているということ。それこそが、主人・良和氏の言葉に表れている。

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    手染めへのこだわり

     平井友仙の特徴は、何といっても「手染め」を貫いている点にある。刷毛を使ってぼかしを入れたその作風を可能にしているのは、職人が持つこだわりに他ならない。

    昔ながらの手法と道具
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     染物の下地を染め上げる染料に糊を混ぜることによって、色が広がらないように仕上げるのは長年受け継がれた手法。そして模様をつける際には「切り型」を使い、刷毛で色付けをすることによってぼかしを入れ、濃淡をつけることによって手書きの味を出しているのが「板場友禅」の特徴となっている。

    「この味を出すのも今では簡単ではないんです。刷毛の材料には、毛先のとがり方が最適な鹿の毛を使っているのですが、現在は国内の調達はもちろん輸入も難しい貴重な物となっています。切り型にしても現在は合繊紙がほとんど。ここでは昔ながらの渋紙でできた切り型でも使用し、それが板場友禅ならではの模様を生み出しているんです」

     その切り型だけではなく、型紙の模様を作る職人も年々少なくなり、現在では京都でも数人を数える程度になってしまっている。その状況で昔ながらの仕上がりを可能にしている平井友仙の染物に、数多くのファンがついているのは自然なことなのである。

    新たな手法も導入
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     手書きの魅力を守りながら、平井友仙ではその手法に現代的な技術も導入している。たとえば花の模様に濃淡をつける場合などは刷毛を使った染めを行うが、下地にグラデーションをつける際にはエアスプレーを使用することもある。

    「その商品にもよりますが、生地を染めるときにインクジェット機を使ったり、スクリーンやローラー染めなど様々な染め方を使い分けています。いずれにしても『手書きの味を損なわない仕上がりを守る』という点だけは譲らずにやっています」

     あくまでも手書き友禅にこだわり、現代でそれを可能にするあらゆる方法・環境を試す――伝統を守りながら新たな試みにも挑戦することによって、その価値を守っていくのが平井友仙のポリシーなのである。

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    京都でも数少ない一貫体制の工房

     板場友禅では、塗り、蒸し、洗いという一連の工程を経て染めを行う。このすべてを一つの工房で行うのも、平井友仙の特徴の一つ。京都の職人小路にある京町屋独特の細長い敷地の奥に工場を訪ねると、その作業を目の当たりにすることができる。

    細部にまで目が届く一貫体制
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     工房にある板場で、一反の長さがある生地に色糊を塗り、乾かないうちに蒸し器に入れて色を染め付ける。この蒸しの作業を専門に行う「蒸し屋」と呼ばれる工場が京都には存在するが、平井友仙ではこの作業も自ら行う。

    「色糊が完全に乾かない状態で蒸すことによって、見た目にしっとりとした仕上がりになりますし、また乾き方にムラがあるとうまく染まりません。このときに乾き具合や蒸す温度、湿度、時間を細かく調節することによって、理想の仕上がりが可能になります」

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     自分の工房で蒸すことによって、時間や温度だけではなく、蒸すときの水分や蒸気の量、細かい調整も可能になり、思い通りに染め上げることができる。

     そして、蒸しあがったものは、機械を備えた水槽で地下水を使って一度洗い、その後手洗いで丁寧に仕上げていく。昔ながらの道具を使った絵付け、板場での塗り、蒸し、洗いにいたる作業を一箇所ですべて行う工房は数少ない。平井友仙では、それを一貫して行うことによって細かい部分までこだわった、丁寧な仕事が可能になるのである。

    丁寧な仕事とその手法を、次の世代にも継承
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    「生地の両面を染めるリバーシブル柄のものがありますが、片面ずつ糊をつけて染め上げるので特に注意が必要になります。その度合いによって色合いが微妙に変わってくるので、すべての工程で細かい調節を行っています」

     ぼかしを使った絵柄、リバーシブルの生地など、平井友仙の作品には様々な特徴があるが、それは伝統の道具と手仕事、そしてすべての工程が可能な設備を持つことで可能な一貫体制を採るからこそ。そして、30年前に四代目となったときに主人自らが受け継いだ伝統の手法は、現在修行中の息子にも伝承する。今後もそのこだわりの作風と共に、平井友仙の歴史は受け継がれていくのである。

    (了)
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